9章 正直さと言葉の奥行き


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  • 東播磨カウンセリング研究会総会対談 2018.4.29
    「福祉の事例をこころと演技から理解する」

    劇作家・演出家     中原和樹
    東播磨カウンセリング研究会会長・心理カウンセラー いなまつゆか

    心理カウンセラーのいなまつゆかが、役者をしている娘を通じて知り合った、劇作家・演出家の中原和樹さんと対談をしました。

    中原さんは、箱庭療法に興味を持ってくださり、それを知ったいなまつが、東京に中原さんのワークショップを見学に行きました。その感性のすばらしさにうたれ、対談を希望したことから始まった企画です。



    い 今回、脚本を書いて、演出もなさっていますよね。それは観ていて、さっきみたいに、「これは思ってない」とかいうのはあるんですか。

    中 はい、そうですね。それはもう、思ってないだったり、まあそれこそ、がまんできなさ過ぎてたり、

    い ああ

    中 巻き込まれ過ぎてたり、逆にこう、もう壁を作り過ぎてしまったりとかも、すごく繊細な作業ですけどあって、ただ、これだったら、15分のお芝居が始まってから、たとえば、泰祐と遥(演劇キャストの2人)の距離感として、

    少しでも、泰祐側がちょっと引きすぎてしまったときに、遥の、その主人公の方がそれを感じ取って引いてしまったっていうことがあったんですね。

    い ああ。

    中 それってこうなってしまった後に、「ああ、違う」と思ってこう戻るって、人間の生理としては、嘘をつくことになっちゃうんで。

    い はあはあはあ

    中 こうなったら、こうなった状態で、やりきってみることしか、発見がないんですね、もう。
    い へええ。

    中 それもあって、あ、交わらなかったり、最後、「少しでいいから考えてください」っていうところ、「はい」って言うんですけど、「はい」が出なかった回があって、

    い ああ。

    (遥に)あったよね。

    遥 ありましたね。

    中 「はい」がどうしても言えない。

    い それは(遥に)何があったんですか?

    遥 最初に「よくわからん」っていうセリフもあったんですけど・・・主人公立花の同意なしに介護の選択をしたり、「強要することはないんです」っていうのが、

    頭ではわかるんですけど、追い込まれている状態で聞いていると、何言ってるかよくわからなくなって、「よくわかりません」っていう最初にまだセリフが決まってないときに、

    い うーん

    遥 「自分もわかりませんわ」ってなったことと、それが積み重なっていって、泰祐くんが、「一緒に考えましょう」って言っても・・・・「言えない」ってなって、止まったことがあります。
    (一同笑)

    い すごくおもしろいなって思うのは、うつ状態とかになると、ベールの中に生きているような感じになるんですけどね、よく理解できないって言うんですけど、説明がね、難しくって、高齢者だし、理解できないって思いがちですけど、

    今のだと、そのベールの中にいるから、「何をおっしゃっているんですかあ?」みたいな、こころがどんどん閉じていくと、相手の方の言っていることが、わからなくなるときがあって、そういう感じでよくわからないのかなっていうのが今、よくわかりましたね。

    なんか、リアルな話で。それを私たちが、説明が悪い、「ちょっと難しかったですか?」みたいな話になっちゃうと、すごくずれがあるんだなっていう風に思うんですね。

    言葉って、ね、不自由で、「ようわからん」って言ったら、頭での話かなって、思うんですけど、実はこころの問題だったりするんですね。こころの状態がモヤモヤしてるとね、「わあ、遠くでなんか言ってるなあ」みたいな感じで、とてもじゃないけど、理解に及ばない。

    そしたら、この方のこころが開けて、霧が晴れてきけるような状態に、カウンセラーが持っていく必要があるんですよね。そこが理解が足りないと、すごくかけちがうというのが今のでわかりますね。

    中 うん

    い ・・・しかし、なかなか厳しい。

    中笑・・・そうですね。だから、言葉のお話を今おっしゃったんですけど、台本の場合も、言葉の羅列でしかないので、紙の上の。言葉の羅列を、言うっていう作業が、僕にとっては、一番最後の作業だと思うんですね。

    中 うん

    それを一番最初にやろうとすることに、作業というか、機能としてやるべきことはあるんですけど、全部の言葉を言えない、というところから僕は出発するので、なぜかというと、言ってる人とやっている人の人生が違うので、

    い 役があるからですね。

    中 そうですね。

    い それを真実として言えない、全部の言葉を。という自覚から始まると僕は思ってるんですよね。言えちゃうって思うと、その人の人生を知ってるって思い込んじゃうんで、

    中 はあはあ

    い 全部言えない。全部言えないけど、それをじゃあ全部真実として言うために、どうやって自分の人生と関わる部分を寄せていって、知ろうとするかっていうのが僕は演劇だって思ってるんですけど。

    なので、文字っていうよりも、そこに文字に書かれているものからみえてくる、その人の人生を体現する、っていうところかなあと思うんですよね。ただの結果として羅列でしかないと思う。

    い 奥行きですよね。

    中 あ、そうですそうです。言葉の奥。

    い 心理学者の河合隼雄さんが、「人のこころなんて、わかるもんじゃない。そのわからないってことを知っているのが、カウンセラーなんだ」みたいなお話をなさってて、すごく一緒だなと思って、

    「ああ、わかりますよ。大変ですよね」って、全然わかってない。けど、ただ大変な感じはするから、みたいなだと、奥行きが多分なくて、

    中 ああ、そうですね。

    い 言葉だけなんですよね。

    中 そうですね。

    い だから本当にそこに寄っていく、奥行きを感じる。

    中 そうですよね。僕はなんか、ブラックホールのようなイメージがあって、洞窟というか、書いてるときは、それこそ、またうちの母さんの話になってくるんで(笑)、書いてるときは、僕の中にやっぱり具体的な人物がいて、

    い うん。

    中 その人物がいないと書けないんですね(ああ)。僕の場合はですけど、その人物がいて、こうこうこう言って、しゃべってくるのを書き留める感じなんですけど、

    ただ、書いた後に、もう1回改めて体現してもらったり、自分で読んだときに、自分では知ってる、自分の中にある人物を書いたはずなんですけど、もう1回なんか、ブラックホールに戻っていってしまうような感覚があって、

    い へええ。

    中 これはなんか毎回、どうあがいてもそうなるんで、ま、そういうもんなのかなって思って、やってるんですけど、やっぱり、再発見するというか、ありますよね。

    こっちのイメージのままでいってしまうと、こう、取りこぼしてしまうものがあるというか、多分ちょっと、演劇の話になってしまうんですけど、演劇的におもしろいのって、台本に描かれている人生と、俳優、演じる人の人生が、同時に存在するっていうのが、すごく不思議な芸術なので。

    さっき僕が言った、台本に書いてある人生だけでいくと、俳優がいる、俳優の人生っていうのがなくなってしまうのもあるんで、そこのところをバランスというか、意識というか、ブラックホールの発見というか、毎回、もう途方もないなと思いながらやってますね。



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    東播磨カウンセリング研究会 (岸本秀子方)
    e-mail  higashiharimac@gmail.com


       

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